ひとは生きて生活していると、私たちの心は、さまざまな苦しみや悲しみに包まれたり、モヤモヤしたり悶えたり、緊張したり、不安になったりと、本当に忙しいです。
私たちの心は、3つの構造で成り立つといわれています。イド・超自我・自我が存在し、相互に作用している。
欲望を充足しようとするイドと欲望を抑圧しようとする超自我、その二つを調整しようとする自我の統制のせめぎ合いで成り立っている。
だから、揺らぎは仕方ないのだと思います。常にバランスを取りながら、湧き上がる欲望を抑えたり、調整したりしているのですから。
そして、欲望を抑圧したり調整したりする機能に防衛機制という機能が備わっています。いかに私たちの”こころ”である自我を守っているのか、今回は防衛機制について学びたいと思います。
防衛機制とは
自我のこころの調整機能によるもので本能であるイドと社会的規範や躾の超自我をコントロールして、不快感につながる不安・恐怖・苦痛・罪悪感・落胆などの心理状態が起こらない様に防衛する機能です。イドの無謀で無思慮な衝動を抑え込んだり、欲望の実現を状況に合わせて延長したり、欲望の向かう方向を変えたりしてある程度の満足を得ます。
しかし、防衛機制がいつでも有効的に働くとは限りません。発動された状況と頻度に応じて、健康的に解消できるものと不健康に対処されるものがあります。
防衛機制の発動
イドから欲動が沸き起こるが、超自我の社会的規範や躾より抑圧されると「苦しい」「辛い」「悲しい」などの気持ちになります。この気持ちが解消されない状況、欲求が解消されない状況が続くと、自我の自我を守る機能により、現実を否認したり、受け入れやすく現実の認知を歪めたりたりといった、心理的戦略が働きます。
そしてよく使われる防衛機制は”抑圧”です。辛くて苦しい経験や体験を無かったものとして、嫌なものから目を逸らし、忘れてしまう。または押し殺してしまう行為です。
抑圧は、自我を守るために、とても重要な防衛機制のひとつです。不安や恐怖、苦痛などのマイナス感情や欲望を無意識領域に押さえ込む機能で、社会適応するためには必要不可欠のものです。
しかし、抑圧が過剰に働いたり、欲動が制御できない場合は不安障害や強迫性障害、PTSDなどの病気に繋がると言われています。
主要な防衛機制
抑圧は、フロイトが始めに唱えた機能です。そのあとにアンナ・フロイトがいろいろと分類し10の主要な防衛機制を提唱したものがあります。
アンナ・フロイトの防衛機制の種類

抑圧
現実社会では禁止されているような欲求やとても苦しい出来事や体験などを無意識の中に封じ込め忘れようとすること。内容には観念、感情、思考、空想、記憶が含まれる。フロイトはこの「抑圧」が最も基本的な防衛機制と考えた。特に心的外傷体験(トラウマ体験)や、性的な欲求などの倫理的に禁止された欲求が抑圧されると考えられている。 否認との違いは、否認は実現困難な欲求や苦痛な体験を一時的に忘れるだけで、他人に指摘されるとその事に気付く。しかし抑圧は意識より深い心の深部(前意識や無意識)にまで押し込められてしまう。そのため基本的には思い出せなくなってしまう。思い出すには努力が必要であり、それほど悪い観念でなければ簡単に思い出せるが、強い抑圧は無意識にまで押しやられているので思い出すのは困難になります。
退行
耐え難い事態に直面したとき、現在の自分より幼い時期の発達段階に戻ること。未熟な行動をしたり、思考や表現様式も幼稚となる。不安な時に他人の話を鵜呑みにしやすくなったりするのも退行の一種だが、これは「取り入れ」をよく用いる発達段階でおこる現象です。
反動形成
受け入れがたい衝動や観念が抑圧され、無意識的なものとなり、意識や行動では正反対のものに置き換わること。本心と裏腹なことを言ったり、その思いと正反対の行動をとる。憎んでいるのに愛していると思い込んだりすること。
投影
自分自身の中にある受け入れがたい不快な感情を、自分以外の他者が持っていると知覚すること。例えば、自分が憎んでいる相手を「憎んでいる」とは意識できず、相手が自分を憎んでおり攻撃してくるのではないかと思い恐れる、自分が性的な欲望を感じている異性に対し、相手が自分に情欲を感じていると思い、「誘惑されている」と感じたりすること。
打消し
罪悪感や恥の感情を呼び起こす行為をした後で、それを打ち消すような類似の、またはそれとは逆の行動を取ること。分離と共に用いられることが多いです。
取り入れ
他者の考え方や価値観を自分の中に取り込むことです。相手との結びつきを求めてもそれが叶わないときに相手を真似したり、同じような振る舞いをしたりします。同じ学校の同級生の成功を自分のことのように喜ぶのも取り入れといえます。
自己への向き換え(自虐)
外部に対する強い怒りなどの衝動を自分の側に向けることです。自分を責めたりしているうちに精神的なバランスを崩すこともありますので注意が必要です。
隔離(分裂)
思考と感情、または感情と行動が切り離されていること。”本音と建前”や”観念とそれに伴う感情”などを分離するが、観念は意識において保持し、感情は抑圧することなどであります。おかしな行為だと自分では気づいているがその行為が止められない、ある種の強迫行為と関わっていると考えられてます。
転倒(逆転)
ある人やものに対する感情が当初とは正反対のものに変わることです。好きな人に拒絶されたことで逆恨みしたりすることがあります。
昇華
反社会的な欲求や感情を、社会に文化的に還元出来得るような価値ある行動へと置き換えることです。例えば、性的欲求を詩や小説に表現することなどである。社会的な活動や成功には必要なことになります。
そのほかの防衛機制
フロイトの弟子などが、いくつかの防衛機制を提唱しています。

置き換え
欲求を本来のものとは別の対象に置き換えることで充足すること。親への怒りを妻や夫、子供に向け暴力を振るうのがこれです。このように本来であれば親に仕返しすべきことを子供にしてしまうとアダルトチルドレンが何世代にも渡って連鎖してします。虐待された子供がペットをいじめるようになるのも置き換えの一種です。
否認
不安や苦痛を生み出すようなある出来事から目をそらし認めないこと。「抑圧」は違い無意識かではなく、その出来事自体が存在しないかのような言動をとり、切り取って行動します。
補償
自分の苦手なことがあった場合にその劣等感を克服するため他の側面を伸ばそうとすることです。スポーツが苦手な子供が勉強を頑張って、良い成績を取ろうとすることが「補償」にあたります。
逃避
困難な状態や都合の悪い状態から逃げることです。他のことに集中して問題に向き合おうとしません。空想に没頭したり、自分の殻に閉じこもることもあります。身体的な反応として具合が悪くなることもあります。
合理化
満たされなかった欲求に対して、理論化して考えることにより自分を納得させること。手に入らないものは「要らないもの」として考えたり、やって成果が出ないものを自分には向いていないと判断することなどがあたります。
知性化
欲望を満たすことが出来ないことの代わりにそれらに関する知識で身を固めること。議論や研究に勤しむことで欲求を満たそうとし、行動や実行はしません。
同一化(同一視)
自分が実現したいと思っている欲求を満たしている人と自分を同じものとみなすことです。プロのスポーツ選手や芸能人のファッションを真似たりする行為はこれに当たります。子供が親の真似をしたり、学生が好きな先輩を真似たりするのも同一化といえます。そうすることで実際には自分の欲求が満たされなくても満たされたように感じることが出来るのです。
転移
特定の人に向けるべき感情をよく似た他の人に向けることです。頻繁に起こる転移としては親や恋人への感情をカウンセラーに向けるというものです。恋愛感情や信頼、感謝などポジティブな感情を示す場合を陽性転移、敵意や不信感などのネガティブな感情を示す場合を陰性転移と言います。
逆転移
逆転移とは、治療者が患者に対して抱く無意識の心の動きのこと。例えば、クライアントが診察に訪れる機会を楽しみに感じてしまう。この時点では、既に意識化されている。治療者は逆転移を足がかりにして、自身の中に想起する感情を自己点検し、コントロールする必要がある。
まとめ
防衛機制について、いろいろなタイプのものを紹介してきました。防衛機制は誰にでもあるものです。しかし、偏って使っているものもあると思います。無意識下で行っているものもありますが、意識化で自然と行っているものもあると思います。
不健康な防衛機制は、心を辛くさせて更なる葛藤が生まれる可能性も高く、さらに心の病気になることもあります。
自分がどのタイプで防衛機制をとっているかチェックすることで、またほかの防衛機制を知ることで対処方法を増やすこともとても大事なことです。
健康的な防衛機制をできるだけ取るように心がけ、判断や迷った際には振り返ってみましょう!